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連載3:山にあって、ホームセンターにないもの
連載:身体と道具の、あいだに。木の岐編

ホームセンターに並ぶ道具たちは、どれも新品で、整っていて、選ぶ楽しさもある。
けれどそれらは、誰が使っても“そこそこ”に使えるように設計された、均一なものでもある。身体にぴったり合うとは限らず、使い手の特性に合わせて調整する余地が少ない。
民具BANKの活動を通して出会った道具の中には、余り物の木や裏山の竹などを用いながらも、用途に合わせて丁寧に工夫されたものがある。それらは、持ち主の体格や暮らしにぴったり合うように調整され、驚くほど機能的で、使う人の創意が随所ににじんでいる。誰かの暮らしに根ざした、世界に一つの道具たちだ。
既製品の道具が悪いというわけではない。けれど、既製品はあくまで「選ぶもの」であり、「つくり変えるもの」ではないことが多い。たとえば、子どもが使いにくい大人用のハサミを前にしたとき、私たちは「合うものを探す」ことはしても、「削って調整する」ことは少なくなった。民具にはその“手を加える余地”がある。だからこそ、身体に、生活に、ぴたりと馴染んでいく。
道具は、ただのモノではなく、その人と共に生き、変化していく存在だ。誰でも作れる、誰でも直せる、誰でも自分に合わせられる。そんな道具がそばにあることは、暮らしそのものに対するまなざしをやわらかくしてくれる。
「ないならつくる」「合わなければ削る」その発想が、かつて当たり前だったことを、私は今、少しずつ思い出そうとしている。