身体0ベース運用法

〈身体0ベース運用法〉リズム編

IDEAS

〈身体0ベース運用法〉リズム編

人の「動き」のバリエーションは250万年以上前に人類が道具を使い始めてから、その発展とともに増えた。しかし、高度な機械の発達によって一度増えた「動き」は次第に減ってしまった。例えば木材加工だと、かつては人力で切り倒し、製材していたものも今では機械でそれを行っている。人力で行っていた頃、そこには身体運動による作業の「リズム」があった。繰り返し反復する中で楽に効率良く作業ができる気持ちのいい「リズム」だ。おそらく、そういった職人が集まる地域では作業のリズム音がさまざまに鳴り響いていたことだろう。

この「リズム」は「目的(叩く、削るなど)」・「物(道具)」・「身体(動き)」の三つの関係性によって決まってくる。つまり、[ 目的 × 物 × 身体=リズム ]となり「物」が変わると「リズム」も変わる。「リズム」が変わると「身体」が変化することになる。

「リズム編」ではこの仕組みを使う。特定の「目的」に似た「身体(動き)」に他の「リズム」を当てはめる。そうすると、その「リズム」に合わせるために「身体」が変化していく。

例えば「叩く・打つ」という目的を持つ「丸太はつり」に「麺切り」の「リズム」を当てはめるとリズムのテンポは速くなり、違う「身体」操作をしないとその「リズム」を打つことができない。このなかで変化する全身の動きを観察することによって動きの仕組みを理解する。

この「リズム編」で使用する「リズム」を〈他人のリズム〉と呼ぶ。〈他人のリズム〉は機械化などに伴って失われつつある人の〈身体〉が作リ出す心地よい作業音である。この音は身体運動の楽譜であり、その作業の動きを読み解くための貴重な記録となる。〈身体0ベース運用法〉ではこの〈他人のリズム〉を収集している。収集された音はトレーニング用の楽譜としてだけでなく、今後、道具とその文化と〈身体〉の関係性を学術的に解釈するためのものとしても役立つと考えている。

ここでは、「物(石と角材)」と「目的(打つ・叩く)」を使って運動をする。そこに「リズム」として「丸太はつり」「麺切り」「仏像彫り」を用いる。「リズム」を合わせるときはヘッドホンなどを使用して瞑想をするようにその音に集中し、しっかりと身体に馴染むまで聞く。その前に「リズム」が馴染みやすいように、朝目覚めてからこれまでの「リズム」をリセットしておく。

聞く→打つ、聞く→打つ、聞く→打つを繰り返して行くと「リズム」によって〈身体〉の扱いが変化していくのがわかる。同じ「リズム」でも足のスタンスや立つ、しゃがむなどの選択肢によっても大きく変わってくる。

また、個々人の〈身体〉の特徴も違ってくるので様々な動きを一つの「リズム」の中に見出すことができる。